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東京地方裁判所 平成元年(特わ)343号 判決

本籍

東京都文京区関口一丁目一番地

住居

同都新宿区下落合一丁目一番一-一二一〇号

無職

坂本富司夫

昭和七年八月二五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金四〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都新宿区下落合一丁目一番一-一二一〇号に居住し、同区百人町一丁目一八番一七号において「ホテル日本」の名称で旅館業を営んでいたものであるが、右ホテルの土地、建物(登記簿上の所在地は同区百人町一丁目二五〇番四)を昭和六一年中に売却したことによる同年分の所得税を免れようと企て、右売却代金を証券会社に開設した架空名義の取引口座に入金し、あるいは架空名義で市場金利連動型預金、通知預金及び外貨定期預金を設定するなどしてその所得を秘匿した上、同年分の実際総所得金額は二四五八万三一四九円の損失ではあるものの、分離課税による長期譲渡所得金額は四億九四九四万七一〇円あつた(別紙1同六一年分の修正損益計算書参照)のにかかわらず、右所得税の納期限である同六二年三月一六日までに、同区内の所轄税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、同六一年分の所得税額一億五三三七万二〇〇〇円(別紙2同六一年分の脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上調査書

2  仕入調査書

3  租税公課調査書

4  水道光熱費調査書

5  通信費調査書

6  福利厚生費調査書

7  給料賃金調査書

8  交通費調査書

9  外注費調査書

10  消耗品費調査書

11  広告宣伝費調査書

12  地代家賃調査書

13  退職金調査書

14  減価償却費調査書

15  雑費調査書

16  利子所得調査書

17  雑所得調査書

18  分離長期譲渡所得収入金額調査書

19  取得費調査書

20  譲渡費用調査書

21  譲渡所得特別控除額調査書

22  社会保険料控除調査書

23  源泉徴収税額調査書

(法令の適用)

被告人の判示所為は所得税法二三八条一項に該当するので、所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、その罰金の額については情状により同条二項を適用することとし、その刑期及び金額の範囲内で処断すべきところ、被告人は、不動産の売却により莫大な利益をあげながら、その申告を全くせずに一億五三〇〇万円余りという巨額の所得税を免れたものであつて、その納税意識の欠如、法無視の態度は著しく、脱税の手口も多数の仮名預金を設定するなど芳しからず、これらの諸点からすると、被告人の刑責は重いと言わざるを得ないが、他方、被告人は、本件発覚後期限後申告をした上、本件に係る本税、重加算税等を完納していること、被告人には前科、前歴はなく、本件の非を深く反省、改悟していることなどの有利な諸事情も認められるので、被告人を懲役一年二月及び罰金四〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 反町宏 裁判官 高麗邦彦 裁判官 山田明)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

坂本富司夫

〈省略〉

別紙2 脱税額計算書

氏名 坂本富司夫

(1) 昭和61年分

〈省略〉

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